初出: 大学ジャーナル Vol.89(2010 年 8 月)
修学旅行で宇治市を訪れる高校生を大学生が中心となってサポートする「修学旅行プロジェクト」※1を、2006年から行っている京都文教大学。源氏物語や鵜飼、お茶などのテーマごとに、フィールドワークの手法を取り入れた学習プログラムを用意して、宇治の各地へ高校生を案内しています。〝観光〟という切り口から学べること、また〝観光〟の可能性について、修学旅行プロジェクトリーダーの人間学部文化人類学科の森正美先生を観光庁スポーツ観光推進室長坪田知広さんが訪れ、観光、教育、地域振興などについて語り合っていただきました。
## 学んで、伝えて、創造する
森先生/「修学旅行プロジェクト」は、宇治市に来てくれる高校生向けの体験型教育プログラムとして、大学が宇治市観光協会や商店街など地域と協力して開発したものです。サポートするのは主に大学生スタッフ。テーマ毎のチームに分かれて、商店街でフィールドワークをしたり、宇治の地域文化である宇治茶の世界に触れたり、和菓子職人や鵜匠へのインタビューなどに挑戦します。体験プログラムだけでは終わらないように、地域開発の問題を景観問題から考えるなど、高校生が自ら考えるきっかけを提供しています。プログラムの最後にはまとめ学習を行い、自分たちの気づき・発見を他チームの人達に発表し、大学教員の講評を受けます。
坪田さん/地域連携と地域貢献が同時になされていて、大学と地域がスパイラルアップしていくよい関係ですね。学生スタッフは何人ですか?
森先生/全学科の学生対象で、今年は30人程です。学生には「学んで、伝えて、創造する」の3つを大切にしてほしいと言っています。高校生に教える立場になるわけですから、まずしっかりと学ぶ。学んだことを土台にして伝えることで、初めて行動を起こせる。学生一人一人の行動が、地域の人々との交流につながり、地域で生きる新たな視点や観光のスタイルを生み出していきます。
坪田さん/観光振興や地域づくりを行う時に大切にすべきことと同じですね。
森先生/8月には、このプロジェクトに沿って、修学旅行生と同様、修学旅行や総合学習の指導者である小中高の先生方にもフィールドワークを体験していただき、教員免許状更新講習も行い、大変ご好評をいただきました。
## ニューツーリズム、スポーツ観光とは
森先生/坪田さんはスポーツ観光推進室長でニューツーリズム推進官ということですが、具体的にはどのようなお仕事をされているのですか?
坪田さん/ニューツーリズムには文化、ヘルス、グリーンツーリズムなど色々あって、スポーツもその一つです。元々スポーツには観戦ツアーやスキーなど、旅行の側面もありますが、目的がはっきりしている分、すそ野が広がりにくい。そこで、試合観戦に行って球場周辺で安くておいしい食事をするとか、文化や歴史ツアーをするといったように、スポーツを起爆剤にして人の交流を増やせないか、各方面へ働きかけています。
森先生/地域密着型のスポーツは大きな地域貢献をしていますが、経営的には苦しいと聞きます。ニューツーリズムと結び付くことで、地域の幅広い産業が活性化するといいですね。しかもスポーツと観光だと、先日のワールドカップでも感じましたが、若い人もスポーツが好きですから、将来も楽しみです。
坪田さん/スポーツには人を動かすすごい力がありますからね。ただそれだけでは足りなくて、やはりスポーツをしたり見たりするきっかけと場とパートナーをマッチングするための環境整備は行政が行う必要があります。たとえば、どんなスポーツでも観戦できるマルチスポーツパスのようなものとか、仲間とフットサルをしようと思った時に簡単に近所で場所が検索できるような仕組みです。今は仕掛けづくりをしている真最中です。
森先生/観戦するだけでなく、地元の人や選手と交流できるとさらに楽しそうですね。スポーツ観光のターゲットは若者ですか?
坪田さん/若者の旅離れを防ごうというキャンペーンも別にありますが、スポーツ観光は幅広い世代がターゲットです。家族旅行の経験が少ないと大人になってから旅行をしないというデータもありますから、まずは子育て世代が旅しやすくしようというのもあります。シニア世代も狙い目です。草野球からゴルフまで、仕掛けを色々作る。最終的には若者に「面白そうだな、おじさんに負けずに自分たちもやろう」と思ってもらえたらいいと思っています。
## わくわくする観光の現場を
森先生/よく学生に「お金もうけが観光の目的と思っていない? 本当は観光って、地域を元気にしたり、人を育てたり、人に感動を与えたりするわくわくするものなんだよ」と話しています。
坪田さん/まさに“感幸”ですね。人の喜びを自分の喜びにできるというか、自分の生きがいをそこにおくことができれば、人との交流にも積極的になると思います。
森先生/ただ、現場に行って現場で考えるのは大事ですが、それだけで終わってほしくはありません。できれば世界の中で自分がどの位置に立っているかを意識して動ける人になってほしい。最近の学生は内向きになりがちですが、経済活性化のために外国人を日本にたくさん招いても、招く側に外向きのメンタリティがなかったらもてなすことができず、リピーターになってもらえないと思います。
坪田さん/来てもらうだけだとそれで終わりです。もてなす側にも交流を通じて自分が成長するというメリットがあるわけですから、それを理解した上で、真の交流マインドを育てないといけないと思います。
森先生/元々フィリピン研究が専門の私が「観光」という専門外のことをやろうと思ったのは、理屈なしで楽しい現場にまずは学生たちを連れ出そうと思ったからです。人と出会って、美味しいものや珍しいものを食べるという楽しい現場で、その奥にある現場の工夫や苦労を学び、少ししんどいことを体験してもらう。もてなしの心は、自分も楽しんで、面白がることができる面があると思うので、その心を学生に身につけてほしいのです。
## いま求められる人材とは
森先生/観光庁ではどのような人材を求めているのですか?
坪田さん/本物のコミュニケーションができる人ですね。色々な話の展開ができる人、こんな面白いことがあったか!と気付かせてくれるような人がいると重宝されます。
森先生/最近は、わくわくしたり、面白がったり、驚いたりという、感性のスイッチがオフのままの若者が増えている気がします。しかし感性は社会のどの分野で活躍するにしても必要ですから、本学ではやはり、面白いと思える感性を持って、その面白さを自己満足に終わらせるのではなく、人に伝え社会に広げていける行動力のある学生を育てたいと思っています。そのため、あくまでも現場主義教育にこだわり、座学だけでは学べないことを学んでほしいと考えています。
商店街フィールドワークなどを通じて、地域の方々との交流が盛んですから、コミュニケーション力については十分鍛えられていると思います。4年間で見違えるようになって卒業していく学生を見ていると、学生の可能性は無限大だと感じます。しかし最近は、自分の可能性や能力を認めることが苦手な学生も多くて、本当にもったいないと思います。
坪田さん/日本自体も同じ状態ですね。いいものがあるのに、謙虚というか、遠慮深いという。
森先生/これからの日本にとって、科学力や技術力、ものづくりの力ももちろん大切ですが、それを売る力がないと、素晴らしいモノでも錆びてしまう。海外にアピールしたり、別のものとつなげたりするためには、コミュニケーション力やもてなしの心がもっと必要なのではないかと思います。
坪田さん/今の若い人も、変に構えてしまわずに、失敗しても失うものは少しぐらいの気構えで、もっと野心を燃やしてほしいですね。あまり根拠がなくても、やればできるぐらいの自信を持てばいい。観光振興も、人づくりにかかっている面が大きいですから、今後もたくさんの優秀な学生さんを世に送り出してください。



