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OPINION

ススメ!理系! 第4回 ナノの世界を探る顕微鏡! その誕生秘話とは

文:大学ジャーナル編集部

初出: 大学ジャーナル Vol.120(2016 年 6 月)

前回までにお話しした「走査型トンネル顕微鏡(STM)」について、おさらいしておきましょう。STMでは、数ボルト以下の電圧を印加した針を試料表面に接近させます。針先と表面が数ナノメーターに接近すると、両者の間には電流が流れ始めます。この電流は両者の距離変化に敏感で、わずかでも近づくと電流は急激に増大します。電流値を一定に保ちながら針を試料表面に沿って走査すると、針は表面の凹凸をなぞるように動きます。この動きをコンピューターで画像化したものがSTM像です。針先が原子レベルで鋭ければ、STMで描きだされる凹凸は原子レベルとなります。今回お話しする『力』で原子を見る顕微鏡は、STMの延長線上で着想されました。STM開発でノーベル賞を受賞した一人、ビーニッヒ博士がアメリカのスタンフォード大学に滞在したときに開発は進められました。ビーニッヒ博士は、針先が試料に極限的に近づくと、わずかながら電流が奇妙に変化することに前から気づいていました。針先が試料表面に単調に近づいたと仮定して算出される変化とは異なっていたのです。彼は、この現象の原因は、針先と試料の原子がお互いに力を及ぼしあい、その結果、原子の位置がずれたことにあると考えました。一体どういうことでしょうか。針先の原子と試料表面の原子の間には物質由来の力が働きます。例えば、原子が2つだけの場合、その距離に応じて、2原子分子を構成するような引力や、2原子の合体を阻止する斥力(反発力)が働きます。この力はバネに例えられます。バネを引っ張ると引力が、縮めると反発力が生じます。多数の原子の場合も、各原子がバネで繋がっていると見なせます。その合力として、針先と試料表面の原子の間には距離に応じた力が働きます。針が試料に近づいていくと、最初は極弱い引力が生じ、徐々に強くなります。その後は、通常のバネのように、引力は徐々に弱くなり、さらに近づくと斥力となります。ビーニッヒ博士は、針が極接近すると、原子間の相互作用である『原子間力』が針先と試料表面の原子位置をずらし、その結果、針先と試料表面が微妙に歪んでその間隔が変調され、奇妙な電流変化が現れると考えました。彼は歪みの原因となる原子間力を測ろうと思い立ちました。原子間力の大きさは強いときで約1nN(ナノニュートン)です。地球上に1㎏の物体があると、重力によって9・8N(ニュートン)の引力が働きます。これの百億分の一くらい弱い力を測定する必要がありました。力の計測にはミリメーターサイズの小さなバネが利用されました。実際には、片端を固定した板状の微小なテコ(カンチレバーと呼ばれます)です。カンチレバーの自由端に針を付けて試料に近づけます。針と試料の間で相互作用が働くと、カンチレバーがたわみます。バネと同様に、たわみ量は力に比例します。彼は、STMの機構にカンチレバーを組み込んでたわみを測れば原子間力が測れる、さらに、力を一定に保ちながらカンチレバーを走査すれば、STMと同様に表面の凹凸を描きだせると考えました。この顕微鏡は『原子間力顕微鏡(AFM)』と名付けられました。STMは電流を測る装置なので、電気を通さない絶縁物の観察は苦手です。一方、AFMは絶縁物も観察できます。力はどの物質の間にも働くからです。世の中には、絶縁物や電気の不良導体が多いので、AFMの活用範囲はとても広いと言えるでしょう。AFMは1986年に発表され、その後、様々に改良されました。その一つに、前回も説明した共振現象を利用する方式があります。カンチレバーをその固有振動数で共振させながら試料に近づけます。原子間力が働くと、固有振動数がわずかに変わります。ギターの弦を引っ張る力を変えると音程が変わるのと似ています。固有振動数変化を測り、力変化を検出するのです。周波数変化の測定にはFMラジオの方法が採用されました。FMラジオは、音声信号で周波数を変調された電波を受信し、そこから周波数変化を信号として取りだし、音声に復元します。この方式の測定精度は高く、わずかな周波数変化、即ち極微弱な力を検出できます。その結果、AFMで原子レベルの凹凸を観察できるようになりました。これまで、針を利用した新しいタイプの顕微鏡の話しをしてきました。次回はいよいよ最終回。これらの顕微鏡を土台とした私自身の研究についてお話ししようと思います。お楽しみに。(続く)

プロフィール

1986年~東京工業大学大学院総合理工学研究科助手,1994年~北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科・助教授、2006年〜同・マテリアルサイエンス研究科・教授,専門分野は表面科学,ナノプローブテクノロジーによる表面構造と電子物性の研究,ナノ力学,研究テーマのキーワードは表面,電子物性,走査型プローブ顕微鏡,走査型トンネル顕微鏡,原子間力顕微鏡,電界放射。麻布中学・高等学校出身北陸先端科学技術大学院大学マテリアルサイエンス研究科 教授富取 正彦先生

大学ジャーナル Vol.120 掲載

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